最近読んで印象深かった本があったので紹介します。
市川伸一さんの「『教えて考えさせる授業』を創る」です。
教育実習で、物理の授業で生徒が主体的に学ぶ場面をどう取り入れれば良いか悩んでいました。物理は、答えが一つしかなく、着地点が見えている場合が多いので、ALには向かない、と思っていたからです。そんな時に、恩師の先生から紹介された本がこれでした。
教えて考えさせる授業の肝は、まず習得しなければならない知識・技能は教えることです。で、その後に考えさせる課題を行う。
何を当たり前のことを、と思われるかもしれません。しかし、思い返すとそうではありません。
小学校でよくある授業では、最初に発問をし、具体物を用いながら考えさせることから始めます。例えば、「12個のクッキーを3人で同じ数ずつ分けると1人分は何個になりますか」という問題を出して、まず生徒に「考えさせる」。この時、具体物としてブロックやタイルを渡して考えさせます。最終的には割り算の意味を理解させることが目的です。
しかし、塾や通信教育で割り算を知っている生徒にとっては面白くもなんともない。
また、周りがどんどん分かってしまうので、未習の生徒は焦り、結局何も身につかない。
結果として、話し合いをさせても盛り上がりに欠けます。また、目的である割り算の意味も十分に理解できず、とりあえず計算ができるだけで終わると考えられます。
これが「教えずに考えさせる授業」だそうです。
それに対して「教えて考えさせる授業」では、まず新しい学習事項を分かりやすく説明して教える。その上で、考えを深める課題を出して、生徒同士で話し合わせます。例えば、先ほどの例で言えば、「割り算はかけ算の反対だ」というキーセンテンスを示して、「分かりやすい説明」を行う。次に、生徒同士の教え合いなどで理解度の確認を行います。
これを踏まえて、いよいよ「考えさせる」。例えば、「12個のクッキーを一人4個ずつ配ると何人に分けられるか」を提示して、先ほどの課題と比較し、割り算の種類を考えさせます。さらに、「それぞれのタイプの割り算の問題を自分で作る」課題を出したりします。
この手法によって、割り算の意味まで理解させることができるようになるのだそうです。
市川伸一「『教えて考えさせる授業』を創る」の図を参考にして作成)
これを読んだ直後は、「なんだ、そんなことか。簡単だな」と思いました。しかし、よくよく考えてみると非常に難しいことがわかりました。
まず、「考えさせる」時間を確保するために説明の時間は大幅に短縮しなければならず、かつ分かりやすいものにする必要があります。つまり、密度の濃い説明です。
次に、「理解深化課題」です。一見、簡単なように見えますが、全員が興味・関心をもって取り組めるような内容と難易度の課題はなかなか思いつきません。
まだまだ勉強が必要だなと感じています。
ところで、「教えずに考えさせる授業」のもう一つの弊害は、知識(正解)を持った人がいなければ話が進まないどころか、間違った方向に発展してしまう、ということだと思います。新井紀子さんが「AI vs 教科書が読めない子どもたち」でこう書いています。
先日、テレビでこんな光景を目にしました。海水浴場でタレントさんがビキニ姿の女の子にクイズを出題しています。問題は「○○は熱いうちに打て。さて、○○に入る言葉は?」という諺の穴埋め問題でした。女の子は4人組です。口々に「え~、知らな~い。何だろ?」「あ、釘かも。釘だよ、きっと」「釘って、熱いっけ?」などと、頓珍漢なことを笑いながら言い合っています。
そんな流れの中で、一人の女の子が「悪じゃない?」と言ったんです。それに他の3人が反応して、「悪?」「どうして?」「どういう意味?」と、突拍子もない珍答に関心を示しました。「悪」と言った女の子は続けまず。「だって、悪い奴はさ、出てきたなっていうところでガーンとやっつけてやんなきゃ、しばくとかしないとダメじゃん」-----。もちろん、漫才師のように、笑わせるためにとぼけたわけではありません。どちらかと言うと、〈私、今、いいこと言っている〉と誇らしげです。
私は、バカバカしい、と思ってリモコンに手を伸ばしました。そのとき、一人の女の子が「そうかも」と同調したのです。びっくりです。伸ばした手が縮みました。すると、他の二人も「あ、それだ、悪は熱いうちに打てだよ」「そうだ、そうだった」と納得してしまい、「せーの、『悪』!」と元気よく答えました。驚愕です。(新井紀子)
この際、この女の子たちの語彙力は置いておきます。ここで重要なのは、正しい推論ができないと、確からしい答えに落ち着いてしまうということです。
もちろんALを否定するわけではありません。しかし、事前に知識を与えないALは、常にこうなる危険性を孕んでいるのではないでしょうか。
ちょっとおもしろ(?)話を挟んだ後に、もう一度物理に戻って考えてみます。
物理こそ、ALに向いているのではないでしょうか?
答えが決まっているので、「悪は熱いうちに打て」なんてことになることもありません。
「考えさせる」場面は、解にたどり着くまでのプロセスで取り入れればいい。
むしろ、数学や物理は最も「考えさせる」授業に向いているのかもしれません。
今回紹介したのは、
「『教えて考えさせる授業』を創る」 市川伸一 図書文化
「AI vs 教科書が読めない子どもたち」 新井紀子 東洋経済新報社
です。
ぜひ、読んでみてください。
P.S.
もちろん、物理現象の解釈の部分では、トンデモ理論が出てくるので、注意しなければいけません…
そこが、教師としての専門性の見せ所でしょうか。
Keisuke Ota / 太田渓介 Website
未知の教育への挑戦 ENHANCE The Horizon
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