宇宙の“箱”を開ける 第5回

まずは前回までのおさらいからいきましょう。ブラックホールとは何か?ということからお話を始めて、ブラックホールは事象の地平面と特異点を持つということが分かりました。事象の地平面は、それより内側にいくと光ですら抜け出せなくなる領域の境界面のことで、「ブラックホール」の名前の所以だということをお話ししました。特異点はブラックホールの中心に存在していて、物質の密度や圧力が無限大に発散してしまうために一般相対性理論が破綻してしまう場所だということでしたね。

この特異点の存在は私たちにある疑問を突きつけています。

それは「一般相対性理論は正しいのか?」という前提を崩すような疑問です。

実はブラックホールの中心にあるごく小さい領域では一般相対性理論を超えた理論が必要なのではないか、と考えられています。一般相対性理論は近似理論にすぎず、物質が1点に集まった非常に強い重力場ではより正確な理論が必要なのではないか?という予想です。この予想はあくまで予想なのですが、ある期待があります。それは、物理の理論は今自分が見ている範囲で有効な近似理論で、それが成り立たなくなった時にはそれを内包したより正確な理論が現れるというものです。

例えば、私たちの身の回りの現象は基本的にニュートン力学で記述されます。しかし、物体が非常に速く進んでいる時にはニュートン力学は成り立たず、特殊相対論が正しいということになります。さらに、強い重力がある時には特殊相対論を超えて、一般相対性理論が正しいということになります。

このように、「速い」「重力が強い」極端な世界を考えるためにはそれに見合ったより正確な理論が現れて、それでもって現実の現象を正しく“予言”できるということを私たちは知っているわけです。(もちろん、だからと言ってニュートン力学は間違っている!ということではありません。ニュートン力学は、私たちの身の回りの現象をかなり正確に表してくれています。日常生活レベルでは、わざわざ特殊相対性理論や一般相対性理論まで考える必要がないわけですね!例えば長さを測る時に、大体の長さで良ければ定規で十分ですよね。わざわざノギスやマイクロメーターを使う必要もないわけです。そんな感じで、私たちの日常感覚レベルではニュートン力学で十分で、相対性理論は随分オーバースペックなわけですよね。ただし、想像を遥かに超えた先、ブラックホールについて考えたければ一般相対性理論を考えなければならないのです!)

ということで、私たちは特異点の存在から、一般相対性理論を超えた新たな理論が必要なのではないか?ということにたどり着きました。では、その新たな理論とは何か、それが私たち小林研究室で研究している「量子重力理論」というものです。

さて、いきなり「量子」という言葉が出てきました。この量子とは、「量子力学」の量子です。第2回で触れましたが、量子力学は20世気になって登場した、まさに現代の物理学の中心となっている理論です。一般相対性理論ではブラックホールや宇宙の始まりなど、「でかい」「重い」世界を“予言”する理論なのですが、量子力学はそれに対して「小さい」世界を“予言”する理論です。ミクロな世界では私たちが想像もできない様々な現象が起きます。「トンネル効果」などは有名なキーワードですね。

ところで、なぜこの量子力学がいきなり登場したのかというと、今考えているブラックホールの中心では、ブラックホールを構成している物質が「非常に小さい1点」に集中しているためです。そのため、ブラックホールの中心付近での物理学では量子力学を考えなければならないだろうということが予想されます。

このように、ブラックホールの中で何が起きているのかを正確に知りたければ、一般相対性理論を量子力学と合わせて考えた量子重力理論が必要になるだろうということが考えられています。量子力学には大雑把には「1点に止まることができない」という性質があるため、ナイーブには物体が1点に集中してしまうという問題を解消できる可能性があるのです!

「わお!そりゃすごいや!で、どんな理論なの?」

よく分かりません。というのも「量子重力理論の候補」となる理論は複数あります。例えば、超弦理論、ループ重力理論、C D Tなどが代表例として挙げられます。それらはある程度期待される性質を持っているのですが、理論が複雑すぎたり、都合が良すぎたりするなど問題もあります。結局どの候補が正しいのか、ということについてはまだわかっていません。(さらに、もっと根本的な問題は、観測的な検証が困難であるということです。物理は“予言”をすることが目的ですが、“予言”を確認するためには現象を観察してその“予言”が正しかったのかどうか確かめなければなりません。しかし、量子重力理論で扱っている現象を観測するためには非常に高いエネルギーが必要となります。そのために観測して理論を確かめるということが現代では非常に難しいという壁があります。)

このように、量子重力理論ならばブラックホールの中で何が起こっているのかということについて調べることができるようになるはずです。しかし、量子重力理論にもまだ問題があるようです。では、どうすればいいのか?

それに対する一つの取り組みが、私が昨年から取り組んでいる、「修正重力理論」というものです!詳しくはまた明日!

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Keisuke Ota / 太田渓介 Website

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